第三章 最低な男ー後編ー

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魔導師は人一倍、カロリーの消費量が激しいのだ。 それは魔力の補充が食事によってのみ供給されることに起因している。 わかりやすく言えば、通常の人間のエネルギー計算の強化版。 普通の人間は運動をしなくても腹が減る。運動をしたらその分余計に腹が減る。 魔力もそれと同じで、魔力を使わなくとも腹が減る。魔力を使えば余計に腹が減る。 ただ、魔導師の場合度を越したエネルギーを欲するというだけであって……。 つまるところ、燃費が良くない。食べるのだ、非常に。 その上、消費するカロリーがなくなれば当然のように魔力は使えなくなる。空腹であれば魔導師は無能に成り下がるという条理だ。 その桁違いな大食いは、魔力量の大きい魔導師であればあるほどにそれは顕著になって表れる。 ヴィクトリアが二十皿もたいらげたのはそのためだ。 そして俺は今、ヴィクトリアに手錠をかけている。 この手錠もまた宝器であり、鍵の保有者が魔力を垂れ流している(かん)、手錠のかけられた者は魔力を封じられ、その使用ができなくなるといった効果を宿している。 つまり、ヴィクトリアは今魔法が使えない。 飯を抜けばこれと近い状況を作りだせるのだが、当初俺には彼女の素性を聞かなければならない事情があり、それにはまず飯を食わせる必要があった。 話をしている途中に空腹でぶっ倒られたらおしまいだからだ。  そんな先ほどの自身の行動を振り返りつつ、周囲を見渡してみる。 草原。辺り一面が草原である。 この場所特有の土質のため、樹木の生長が悪く、木の類いはほとんど見当たらない。 そんな遮るものがなく、心地の良い風が頬を通り抜ける午後三時。 ここはウエスト・ブロックとノース・ブロックの境界線。 俺は手をかざしながら煙草に火をつけた。 .
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