第一章 邂逅

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「うぷっ……」 珍しく天気は良好。 爽やかな潮風が心地よい昼間。 太陽の光が照らし出して、活気づく港。 木造の小型船の上で、俺は……。 「オボェロロロロロロロロ……」 吐いていた。 船酔いだ。 吐瀉物(としゃぶつ)が海に(こぼ)れていく。 ニット素材でできたパーカーの袖に少し汚れがついてしまった。 出すもの出したのに、何故だか一向に気分が優れない。 胸の奥のむかむかがつっかえたままである。 数日の航海の最中(さなか)もそうだったが、目的地についてもまだこれだ。 もう何度目の航海になるのだろうか? いい加減慣れても良さそうなのだが、その辺りどうも自分の身体は不器用に出来ているらしい。 いつまでたっても融通が効かず、海に出る度にこうして苦しむはめになる。 もはや辛いを通り越して情けない限りだ。 「……はぁ」 ここは、北極圏の近くにある島国。 名をマリンランドと言う。 雪は降るものの、暖流と偏西風、それと塩分濃度の関係で冬でも港は凍らない。 かといって夏が酷暑になるわけでもなく、年間を通してマイナス五度から十五度程度で落ち着いている、比較的冷涼な気候だ。 沖合いには潮目があり、漁業資源が豊富だが、この国はいまひとつ貿易の中心地になりきれないでいる。 なぜか。 それは、この国が世界でも五指に入るほどの紛争地域であるからだ。 西の大国ウォルタリア帝国と北の大国ミハイロフ連邦のちょうど中間地点にあり、さらには不凍港を持つという価値の高さ。 戦略的要衝であるこの島を奪わんと、かつては両大国が直接この地で戦争を繰り返していた。 .
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