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俺は桶に貯めていた水を両手ですくい、口をすすいだ。
袖で水滴を拭うと不快な臭いがして、自然と眉間にしわが寄ってしまう。
しっかり洗濯すれば大丈夫だろうか。
袖についた汚れを気にしながら一抹の不安を覚える。
一時的にでも落ち着きを得るために、俺はとりあえず煙草を取り出して火をつけることにした。
一口吸って煙を吐き、甲板から海面に映る自分の顔をなんとなしに眺めてみる。
二十五歳にもかかわらず真っ白な頭。柔らかな髪は目にかかる程度まで伸ばしているが、髪型に特にこれといったこだわりはない。
輪郭だけを見れば年相応、もしくは若く見えるはずなのだが、いかんせん白髪である。老けて見られることの方が多い。
深い黒い瞳はわりと気に入っていて、そこだけは授けてくれた両親に感謝している。
服装は茶色のブーツに黒のカーゴパンツ。腰まわりは比較的すっきりとしたデザインで、カーゴパンツにありがちな野暮ったさは見事に排除されている。
上は、臙脂色でニット素材のゆったりとしたパーカー。両手には黒の手袋。ちょっとやそっとの寒さなら十分に耐えられる格好だ。
首元を見るとシンプルなデザインのシルバークロスが一つ。服全体のアクセントとして機能している。
二口目の煙を空に向かって吐き出すと、煙草の残りが気になった。
ここ数日の航海で船酔いに襲われる度に煙草に頼ってきたのだ。
確認してみると案の定、箱にはわずか数本しか残っておらずがっくりと肩を落とす。
最近はまるで良いことがない。
誰かに呪われてるんじゃないかと疑いたくなるが、心当たりがありすぎて考えるのをやめた。
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