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煙草をくわえながら桟橋を歩き、港を通り抜けて近くの市場に出る。
この市場にも特別用はないから、足早に歩き抜けるつもりだった。
が、
「よう、レオ。調子はどうだ?」
呼び止められる。その先に目をやると大男が笑顔を浮かべていた。
右手で紙袋を携えつつ、もう一方の手を挙げてこちらに合図を送ってくる。
レオナルド。それが俺の名前である。レオと呼ばれることの方が多い。
誰かに自分の仕事のことを説明するときには冒険家もどき、もしくは、この街の首長の護衛をやっていると名乗る。
そして今回尋ねられた調子というのは、その前者を指していた。
「からっきしさ、ジェイク。ほとんどハズレばっかり。相変わらずの貧乏だよ」
「はっ、そいつはお前が悪い。普段の行いが悪いからそうなっちまうんだよ。周りに対する感謝が足らねえからな、お前は。そこで一つ、心優しい俺様から貴重なアドバイスだ。とりあえずは俺相手に態度を改めるところから始めてみるといい」
ジェイコブは銀歯を光らせ、ニヤッと悪人らしい笑顔を作る。
この男は俺がこの国に来てすぐに知り合った男で、以来かれこれ付き合いは三年になろうとしている。
とにかく口が悪い、というのがジェイコブの一番の印象だ。
歳は三十代半ばくらいか。直接訊いたことがないから正確にはわからない。
黒い髪はサイドだけ短く刈り込まれていて、アップバングされた前髪は七三分け。ジェルで塗り固められている。
厳つい顔に分厚い胸板。そのくせ、黒のスーツなんて着ているものだから、どこかの組織でボディーガードでもやっているんじゃないかとついつい疑いたくなってしまう。
が、一応の肩書きはわりとまとも。バーの店主だ。
羨ましいことに俺とは真逆で売り上げは好調らしい。
「そうすりゃあタダ酒でも飲ませてくれるってのか? いやあ、そいつは助かるな。なら、いくらでも手くらい合わせてやるよ。ちょうど文無しに近い状況だったんだ。いやあ、ほんと助かる助かる。さっすが天下のジェイコブ様だぜ」
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