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「お前さんは、相変わらずの減らず口だな。呆れちまうぜ。だが、一つだけ言わせてもらおう。ちょうどじゃねえだろ。てめえはいつだって手持ちがゼロじゃねえか。見栄張んなクソったれが」
「おいおい、言葉がキツいぜ。まあ……でも、確かに一理ある。俺はあんたの言う通り年がら年中金欠だ。認めてやるよ。だから、そんな哀れなやつに少しくらいタダ酒を恵んでやったとしてもバチは当たらないと思うんだがな?」
煙を一つ吐いて、やる気なくジェイコブを見てみる。
残念ながら返ってくる答えに期待はできそうになかった。
「なあ知ってるか、レオ? この世にゃあタダよりも怖いものなんてないらしいぜ。皆そう言ってやがる。もっぱらの噂だ」
「ほう……。なるほど、タダが怖いと……。随分と世の中は怖がりばかりで溢れかえっちまってるみたいなんだな。なんだか情けなくなるぜ。どうやらここは一つ、俺が男を見せる必要があるみてえだ。仕方ねえ、ジェイク。そのタダ酒もらってやるよ」
ジェイコブはこめかみを掻きながら苦笑する。
「論外だな。舌回す暇あんならまともに働きやがれ、バカ野郎」
今度は俺が苦笑する番。
それから一拍間を置いて、そうだな、とだけ呟いた。
元々望み薄な要求だったのだ。大した落胆はない。
「で、良い酒でも手に入ったのか? やけに機嫌が良いじゃねえか、ジェイク」
今日のジェイコブは、なんとなくだがテンションが高いように見える。
きっといい買い物でもしたのだろう。
「ああ、そうじゃねえんだ。基本的に酒と食材は直接店に届けるよう頼んであるからな。だから今日ここに来たのは別件だ」
「あん?」
ジェイコブは右手に持っていた紙袋から、慎重にガラスで出来た円柱状の水槽を取り出して俺に見せつけてきた。
「何だこれは?」
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