142人が本棚に入れています
本棚に追加
「……んっ、……やぁッ」
「……千早、声……我慢するな」
「だっ……てぇ」
――夏休み、生徒会室。
クーラーの効いた、涼しい部屋で、二人きり。
「外に……、聞こえちゃ……」
――学年全員強制参加の夏休み補習、自習時間。
「ん……ッ、あぁっ」
「声、聞かせてやれよ」
「そ、なの……やッ」
――蝉の鳴き声が、私たちの情事を囃し立てる。
「……んっ、……あッ」
「……くッ」
――廊下を歩く誰かの足音が、私たちの体温を上げる。
そんな――夏。
◇
「――ッ」
私は、その場で飛び起きた。
「……夢?」
外はまだ暗い。
畳に敷かれた薄い布団の上で、私は自分の夢に自己嫌悪を覚えた。
なんて夢を見ているのだろう。
――外では、蝉の鳴き声が嫌と言うほど五月蝿く響いていた。
あぁ、そうか、もう夏なんだ。
「……帝」
今日、帝は帰って来なかった。
帝に振られてから、まだ一日だって経っていない。
それなのに、こんな夢を見てる私って、最悪。
「……はぁ」
私は大きく溜め息を吐いた。
帝は今日帰って来なかった。
気になるし、凄く心配だ。
でも正直、今帝と顔を合わせるのは辛い。
泣かない自信がない。
いや、もう泣くことすら出来ないかもしれない。
虚しすぎて。
「……夢だったら、良かったのに」
今日の帝との出来事が、全部全部夢だったら良いのに。
明日起きたら帝がいつもみたいに笑って「おはよう」って……。
だけど、おはようどころか帝は、帰って来てすらいないのだ。
「……」
私は、ぎゅっと布団を握りしめた。
もう帝は私に笑いかけてくれないかもしれない。
だけど、それでも側にいて欲しい。
恋人としてじゃなくてもいいから。
――月が仄かな光で部屋を照らす。
そんな部屋で私は一人、夢の中の帝に、もう叶わない想いを馳せた。
最初のコメントを投稿しよう!