拾六◇裏切り

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「……んっ、……やぁッ」 「……千早、声……我慢するな」 「だっ……てぇ」 ――夏休み、生徒会室。 クーラーの効いた、涼しい部屋で、二人きり。 「外に……、聞こえちゃ……」 ――学年全員強制参加の夏休み補習、自習時間。 「ん……ッ、あぁっ」 「声、聞かせてやれよ」 「そ、なの……やッ」 ――蝉の鳴き声が、私たちの情事を囃し立てる。 「……んっ、……あッ」 「……くッ」 ――廊下を歩く誰かの足音が、私たちの体温を上げる。 そんな――夏。   ◇ 「――ッ」 私は、その場で飛び起きた。 「……夢?」 外はまだ暗い。 畳に敷かれた薄い布団の上で、私は自分の夢に自己嫌悪を覚えた。 なんて夢を見ているのだろう。 ――外では、蝉の鳴き声が嫌と言うほど五月蝿く響いていた。 あぁ、そうか、もう夏なんだ。 「……帝」 今日、帝は帰って来なかった。 帝に振られてから、まだ一日だって経っていない。 それなのに、こんな夢を見てる私って、最悪。 「……はぁ」 私は大きく溜め息を吐いた。 帝は今日帰って来なかった。 気になるし、凄く心配だ。 でも正直、今帝と顔を合わせるのは辛い。 泣かない自信がない。 いや、もう泣くことすら出来ないかもしれない。 虚しすぎて。 「……夢だったら、良かったのに」 今日の帝との出来事が、全部全部夢だったら良いのに。 明日起きたら帝がいつもみたいに笑って「おはよう」って……。 だけど、おはようどころか帝は、帰って来てすらいないのだ。 「……」 私は、ぎゅっと布団を握りしめた。 もう帝は私に笑いかけてくれないかもしれない。 だけど、それでも側にいて欲しい。 恋人としてじゃなくてもいいから。 ――月が仄かな光で部屋を照らす。 そんな部屋で私は一人、夢の中の帝に、もう叶わない想いを馳せた。
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