零◇始まり

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始まり――それは季節はずれの桜がひらひらと軽らかに舞い散る、ある夜のこと。 桜の花弁は満月の白銀の光に照らされ、まるでそれは雪のように静かに地面に降り積もっていた。 「どこだ……、ここ……」 「……わかんない」 二人の見目麗しい少年少女が時を越え現れた先は――幕末。 しかし二人は己が幕末の時代にいることを、知る由もなく。 「……千早、俺たち」 「もしかして……迷子?」 二人はまだ何も知らない。 物語の始まりを、己の運命を変える人々との出会いを。 そしてまた己自身が、人々の運命を、歴史を、大きく変える存在であるということを――。 月光が、舞い散る桜の花びらを、恍々と照らし出す。 この物語の始まりは、まさに、桜華の奇跡――。 ……桜が起こした奇跡だったのかもしれない。
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