1 歓迎

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2-5  アルスは沿道から沸いた歓声に、少しだけ眉をひそめた。  やたらと腰の低い老人が現れ、趣味を疑う派手な馬車を示された。  すぐに傍らで畏まっているレイリューンを老人に紹介し、同行させる旨を伝えた。  馬車に乗りこむ直前、沿道に目をやり、片手をあげた。木の枝に手をかけ、こちらを見つめている娘に。  あれが彼女だと断定できるものは何もないが、なぜか心配そうに見守られているような気がした。  沿道の人々と同じ視線でも、気持ちによって温度はかわるものか、と思う。  先に乗せたレイリューンが不思議そうに尋ねてきた。 「何かありましたか」  恐らくレイリューンは気づいていないだろう。 「木に珍しい花が咲いていた」 「えっ、あなたも気づきましたか!?」  心底驚いた顔だった。これは、間違いなく同じものを見ていたに違いない。  しかし、 「何をだ」  動揺を押し隠して言った。
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