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2-6
馬車が動き出す。
横目でアルスは花、と称した娘を見た。
近づいてくると、それが彼女だという確信にかわる。名前を呼ばないのはレイリューンとの暗黙の了解。
遠いな、とアルスは思う。
この先、はたして自分たちは近づくことがあるのだろうか。
「なにって、あなたが以前、光にたとえた花ですよ」
「どのような花ですか?」
いきなり老人が話に割って入った。
「もしお気に入りの花がおありならおっしゃってください。いくらでも切って参ります」
「いや、好みの花を指定すると根こそぎ集められてしまいそうな勢いだ。それは、本意ではない」
飾られるための花など興味はない。
花なら野に咲く花を。大地に根差し、ひたむきに顔をあげる、あの潔さを。
アルスはもう一度沿道へ目をむけたが、もうその花は見えなかった。
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