13人が本棚に入れています
本棚に追加
2-2
「いい、いい。どうせ相手から見えても誰かはわからないわよ。お祭りなんだからそれくらいは大丈夫」
「お祭り…?」
「お祭りよ?」
「そ、そうだっけ?」
しかし実際、母親の言うように木にでも登らない限り、アルスの姿は見られそうにない。
あの燃える夕景のような赤い瞳を間近で見つめたのは、もう遠い昔のような気がする。
あの時は、天へ報酬を要求するための人質としてアルスの傍にいられたが、天に戻ってきた今となっては、いくら彼に想いを寄せても叶わないどころか、お目にかかることさえできないのだ。
諦める努力をはじめるには、木登りはいい運動かもしれない。
「よし、登るかっ」
軽く腕まくりをして低い枝に手をかけ、身軽にするすると上まで登っていく。
「セリューナ、見える?」
母親が心配そうに下から声をかけてくる。
「うん、何とか。…あ…っ」
「え!?」
最初のコメントを投稿しよう!