13人が本棚に入れています
本棚に追加
2-3
色とりどりの生花と黄金に彩られた馬車のそばに黒髪の男が見えた。
アルスさま、と瞬間思ったが、顔が判別できる距離ではないので、本当に彼かどうかはわからない。
続いて黒髪を束ねた男が現れた。長髪の男はアルス一族ではひとりしか見かけなかった。あれは、ほぼ間違いなくアルスがいつも傍らに置いていた部下のレイリューン・ランザだろう。
「レインさん……」
それを認めるとすぐに黒髪の男へ視線を戻す。
つまり彼がアルス一族の長、フェシルミア・アルスだ。
セリューナは無意識に、手をかけていた枝を力いっぱい握りしめていた。
……なんでこんなに、遠いんだろう。
片や、国をあげて歓迎されている魔族の長。片や、それを見物している娘。この距離。
アルスは軽く片手をあげ、歓声に応えて沿道を見渡す。
視線がこちらで止まったような気がしたが、そんなものはただ運がよかっただけだ。
最初のコメントを投稿しよう!