―五日月―

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ぐつぐつぐつ―――― いい匂いがする・・・。 ・・・はっ!私としたことが眠ってしまった! 私ははっと目を覚ます。 すでに日は落ちてしまったのか、格子は閉められ部屋は薄暗かった。 ばっとふすまに目をやるとその人の後ろ姿が見えた。どうやら鍋を囲んでいるらしい。 気配に気づいたのかこちらを向いた。 「調子は?」 「・・・。」 私は警戒心を丸出しにして相手を睨み、何も答えない。 「お腹空いてる?お粥食べられる?」 相手は鍋から椀にお粥を注ぐと私のほうに差し出した。 「・・・。」 きっと毒入りに違いない。 私はやはり何も言わず、相手を睨みつける。 「何も入ってないから安心しなよ。ほら。」 考えを見抜かれた!? 相手は笑いながらそういうとさじを取り、ぱくっと一口食べて見せた。 「まずくないから。」 相手はそう言って、なおも私に椀を向ける。 確かに匂いは美味しそう・・・。 ついそう思ってしまった時、 ぐうぅ・・・ 本能に従ったお腹の音が響き渡った。 「「・・・。」」 しまった。 顔が一気に火照る。 そんな私を見て相手はくすりと笑った。 「お腹は正直みたいだ。我慢は体に毒だから・・・。食べないと傷も良くならない。」 いいながら椀とさじを持って私に近づいてきた。 私は身を固くする。相手はその様子を見てか、微笑みながら言った。 「何もしないよ。何かしようと思うなら寝てる間にしている。」 確かに・・・。 「不安なら、余計に早く良くなって動けるようになったほうがいい。」 「・・・。」 なおもしつこく言われて私はついに観念して小さく頷いた。 「!?ちょっ!!」 その人はお粥をすくったさじを私の口元に近づけた。 これは俗にいう“あーん”? 「体が動かないならこうするしかないだろ?」 にこやかに言う。 「我慢、我慢。」 「・・・。」 しぶしぶ私は口を開けた。 .
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