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◇???
暗いことから始まり次第に明るくなって、まず見えてきたのはブラウンの高い扉・・・と、斜めに動いて次に見えたのは扉の取っ手。
幼い腕でその取っ手を下に動かして、押すとその扉が開いた。
その先には新築のもののように明るい木造の壁、大きな本棚、デザインを重視した作業机・・・など、なかなか落ち着いた趣(おもむき)のある部屋。
そして、その部屋の窓に肩手をついていた一人の初老に思える男性が嬉しそうに笑顔で振り返った。
『おかえり』
『おじいちゃっ、あッ!』
バタッ!
彼と目があったなり、走って近付こうとしたあまり転んでしまった。
特に下半身では膝、上半身では顎が先に床に付いたせいで骨に響いたと思うくらい痛い。
でも、自力で立ち上がろうとする。
『大丈夫か、シード』
男は驚き慌てた声を上げるのではなく、悪戯のような笑い声が混じった口調で、自ら歩いて近付いてきた。
彼は自分の孫の名前と共に、痛みに負けず両腕で上半身を上げた孫を優しく抱き上げる。
そして、そのまま近くの一人用に座って、改めて孫を抱き寄せたら背中をポンポンと手で優しく叩く。
『おじいちゃーん・・・』
まだ痛いから泣いてしまいそうだったが、大好きな祖父のぬくもりでもう忘れてしまった。
―眠たくなった気もする。
またお日様のようにとても温かい祖父は我が子のように愛でる微笑みで、今度は頭を撫でてくれた。
『シード、もうすぐだな』
『にゅうがくしきのこと・・・?』
ああ。と、祖父は小さく頷いた。
もうすぐ“僕”はバディセ学園に入学する。
―祖父はこれを誰よりも楽しみにしていた。
でも、このような温かい光景を思い出す度に・・・泣きたいほどに胸が痛くもなった。
『シード、入学祝いに何か欲しい物はあるか?』
この頃祖父は度々“僕”にこう尋ねていた。
―“僕”の“欲しい物”と言ったら・・・。
◇
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