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『くびわがほしい!!』
それで毎回“僕”は思い切って叫んでいた。
祖父は当然案の定、驚かずに『ハッハッハッ』と高笑いした。
“欲しい物”と言ったらそれしかなかった気がしたのだ。
・・・後々になって『ごめんね、おじいちゃん・・・』とよく心の底で謝っているほど。
だが当時祖父とは、年のせいでよく同じやりとりを繰り返していたのではなかった気がする。
だからって、今どうしてと尋ねようとしても・・・もうすでに出来ないことだと“僕”には未練と後悔が残っているのだった。
『シード、そんなに待ちきれんか』
『まちきれないっ! 』
『そうか、そんなに欲しいのか』
祖父は半ばやれやれとため息を吐きつつも、首を覆うマフラーをほどいて首元を露にさせた。
首の下に薄い銀のような物が鎖骨に沿って曲がり、そのわずかな隙間に正九角形の平べったいオレンジ色の宝石を垂らした装飾があった。
とてもシンプルかつ少々変わった首飾り。
―そう、これが“欲しい物”であった。
“僕”はそれに手を伸ばした。
その時、祖父の雰囲気が変わった。
『わしは決めんたんじゃよ』
触りたい“僕”に対して祖父は決意という強い意思が感じられる表情で見、首飾りを触らせないように手を当てた。
しかし、まだ口調は優しい方だった。
『これはな・・・お前が学園を卒業して立派な大人になったら――』
と、この瞬間祖父が光に包まれるように消えていき、代わりに――。
ジリジリジリ・・・
という耳障りな音が。
―それは“彼”を起こすための聞き慣れた音だった。
◇
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