何色がいい?

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 その時ユウヤの眼に本の表紙が映り、彼はその表紙に見覚えがあった。男がギリシャ彫像のようなポーズを決めている。漫画だ。タイトルは、ジョジョの奇妙な冒険。略称はジョジョ。  彼は以前、その漫画本を友人から借りて読み進めた事があるが、数巻で頓挫していた。グロテスクな絵とわけのわからないキャラクターの調子が、どうしても好きになれなかった。  ユウヤが言った。これは用意してなかった科白だ。 「ジョジョ、お好きなんですか?」  赤色のラインがデザインされた上履きをぱたぱたと動かし、彼女は鼻をすんと鳴らした。 「質問を質問で返すなとこの漫画に描いてあったけど、どうしても言いたくなってくるね。君も読んだ事があるのかい?」  上履きにデザインされたラインが赤色の場合、それは第三学年のものだ。ユウヤのものは青色で、第二学年を示す。彼は肩をすくめ、正直に言った。 「一度だけ。自分はどうにも絵になじめなくて、読んだのは最初の数巻だけですね。先輩はお好きなんですか?」  彼女は愉快そうに頷いた。 「わたしもはじめはそう思っていたね」そして、ユウヤに漫画を貸してくれた友人と同じ言葉を言った。「でも、十数巻あたりまで読み込むとなかなかクセになるよ」  ユウヤは笑った。 「その漫画が好きな人は、皆そう言いますよね。わかりました。読んでみます」  彼女はまた頷き、「それがいい」と言った。顔を傾ける姿は、行儀の良い猫のようだった。  椅子と机に埋もれかけた用具入れに、ユウヤが手を伸ばそうとした振り返った時だった。 「ここへはバケツ、いや、箒を取りに来たのかな?」  ユウヤはぎくりとした。 「よく分かりましたね」  彼女は嬉しそうに微笑んだ。 「おお、当たった。やった」  ユウヤは疑問に思った。 「先輩は、なぜ分かったんですか」  たしかに、殆ど物置に近いこの場には掃除用具入れの他に、机と椅子くらいしか置かれていない。もとより屋上は出入り禁止で、鍵もかけられている。それでも自分が取りに来たものを断定した彼女に、ユウヤは驚いた。
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