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「医術の心得のある者同士で旅をして、病院や診療所のない小さな村街やいくさのあとを回ろうっていうのは、あのサジが言い出したことなんですけどねえ、どうしてもまとめ役は受けてくれなくて」
「…わたくしは…羊飼いをしたいと申したまででして」サジという男が、それまでずっと黙っていたことにザクスは気づいた。
「いやでも実際、羊飼いは大成功だったね。広い範囲をうろうろするんで、気が付いてもらいやすいし、弱った患者さんもヨーグルトやチーズで精をつけてもらえる。丈夫なひとたちには毛刈りばさみや編み針なんかの作り方を授けたりでsきるし、逆に毛刈りを手伝ってももらえるし、それにこうして、たまにすごいおまけがある」
青年はにこにこしながら続けた。
「春の国で一番の名工にお尋ねいただけるなんて、ザクスどの」
「…あ?」
「いようザクス、久しぶりだなあ」
ひげ面の若い男が手を振り上げた。もう一つの手には松葉杖がある。
「なんだシグル!!?かみさんから出てったきり帰ってこねえと聞いて、飛んできたんだぜ」
「バジルさま、こいつがいつもお話ししているザクスでさ。おいらの自慢の幼馴染です」
「…あれが伝説の名工ザクスさまかい」
「思ったよりお若いんだねえ」
「男前だし」
「うへえっ!!」
ザクスの顔がみるみる真っ赤になった。「やめてくれ『さま』は勘弁してもらいたいぜ」
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