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「いい方向性だぜ。俺に手伝えることがあったらなんでも言ってくれ」
「おいらは…家になかなか帰れなかったのは、つれあいががっかりする顔をみたくなかったのと、やっぱり若え頃の夢が捨てきれなくてさ。でもあのときサジのだんなに掘り出してもらわなきゃ、この足はうまくつながらなかったかもしれねえんだ。で、タオちゃんに教えてもらった通りに動かなきゃ、歩いたり仕事したりもできなかったかもしれねえ」
「うん」
「あの礼拝堂の現場には戻れねえけど…おいらはそんなふうに誰かになにかを返してゆきてえ。別の夢を育てることで、けがや病気で足腰がうまく動かせなくなったひとたちの、埋もれそうな夢を一緒に掘り出してえ」
「ん?…サジのだんな?」
「あの『じいや』のことだ」タオが笑いながら付け加えた。
少女に対する叱責にしてはやけに厳しかったサジの口調を、青い顔をザクスは思い出した。「…そうだったのか」
「サジのだんなもひとから掘り出してもらったんだとさ。で、やっぱりなにかを育ててえんだと」
「ふうん…」ザクスはあごに手をあてて何事か思いやっていた。
「ところで、天井裏といえばさいぜん」
「ん、なんだいタオちゃん」
「そうだな…梁と梁の突き合せのあたりかな。そなた、上をあおいで『やべえな』と言っておったであろう」
「…本当によくみているねえ。やばいところはほかにも山ほどなんだが…あの天井は特にやばい」
「土の柔らかさがあちこち違うためだろうか」
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