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……さて、場面はそれから十数分後の話。弘と別れて、フラフラと千鳥足でなんとか自宅前まで辿り着いた頃になる。
未だ失恋を引きずっているせいか足元が覚束無ず、周りの景色なんて見えなくなるくらい上の空な状態だったのによく辿り着いたもんだ。誉めてやりたいくらいだぜ。
「……寝よう」
今日はもう、何にもしたかないや。何をやっても無駄な気さえする。てか、それを行う気力もない。こーゆー時は寝るのが一番だ。寝て全てを忘れよう。
幸い明日から週末休日だ。この満身創痍な身体と心を休めるにもってこいの期間である。週明けまでには復帰できるようにしなければ、な……。
やはりフラフラとした足取りで玄関前まで歩いた俺は、扉の鍵を開けた。
「…………」
菅原家は二階建ての極々一般的な一軒家である。目立った特徴は無いが、俺こと菅原晃斗が世界で一番落ち着ける場所であることは間違いない。
特に自室の布団の上なんか至高の場所だ。今宵はそこで、荒んだ気持ちを休めることにするつもりだ。
因みに家族構成は両親と俺だけ。そして両親は出張に出掛けており自宅には居ない。
昨年の暮れに出張のため海外へ向かうことになり、あまりに唐突な出張だったため、当時高校一年だった俺だけがこちらに残ることになったのだ。
職業は二人とも科学者らしいが、それらしい部分を自宅では見たことがない。
かといって自宅以外で両親を見たことがあるかと問われれば答えはNO。まぁ、研究員らしき人間が何度か家に来ることがあったから間違いではないだろう。収入だってあるし。
……ま、そんなことはどうでもいいか。今は何より、憩いの場所が恋しい。早く家の中に入ろう。
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