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扉を開けた瞬間、肌をなぞるように内部から生温い空気が漂ってくる。夏の終わりを感じさせるようだ。変にしっとりとしている。
そしてやけに薄暗い。明かりが点いていないせいもあってか玄関から先があまりよく見えない。今年は晩年より日が沈みだすのが早かったから、それと相まって余計暗く感じる。
「暗いな……」
外の暗さも引けず劣らずといった感じに暗くなってきている。このまますぐに暗闇が我が家を支配するだろう。何も見えなくなるくらいに。
そうなる前に、俺は家の明かりを点すことにした。が、その明かりのスイッチの場所も周りが薄暗くて分からない。
ならば、と俺は携帯を開く。照明代わりだ。これならば、少しは明るい。自分の周りを照らすくらいの役割を果たしてくれるはずだ。
「……あ」
ふと開いた携帯。その液晶画面には九月十日、午後六時二分、Fridayの文字が並んでいた。それを見たオレはハッとし、携帯の画面を見つめる。
「今日、俺の誕生日……」
今日、九月十日は俺の十七歳の誕生日。本来なら目出度い……はず。しかしそれに改めて気づいた俺は深く嘆息した。
誕生日とはいっても祝ってくれる人は居ない。強いて挙げても両親程度しか居なくて、その両親も今は海外に出張ときたもんだ。
さらに先刻の失恋のショックで、今の俺の心境では自らの出生を祝う気分なんかになれそうにない。
「……最悪の誕生日、ってところだな。ハハ……」
自虐。そして苦笑。力なき笑いが家の中に広がった。なんていうか……不幸だ。
ふらりと軽くよろけ、倒れそうになる自分を壁に手を着くことで支えた。
刹那、掌が固いものに触れる。変に固いそれを指でなぞる。指でなぞったそれは俺が探そうとしていたものだった。
「あ……、スイッチか……」
様々な出来事により暗く沈んだ自らの心。せめて目の前の景色くらいは明るくあってほしくあった俺は、己の指でそのスイッチを押した。
瞬間、照明が明るく家の中を照らし出す。その明るさが少しは心の暗闇を照らしてくれるのを期待していた。
そして俺は、明るくなった家の中で自らの目を疑うこととなる。理由は単純。目の前に信じられないものがあったからだ。
――通常の五倍はあろうかと思われる段ボール。それが玄関先に顕現していた。
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