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某年九月。一人の少年が街道を歩いていた。手には手提げ袋、半袖半ズボンと、涼しげな格好の少年。
しかしその季節に似合わぬ暑さが少年の肌を衣服をあせで湿らせる。これを猛暑と言わずに何と言う。そんな暑い日だった。
彼の歩く地面は、まるで太陽に「暖めてください」と言わんばかりに空から降り注ぐ太陽光を吸収し、熱へと変換、大気に放出している。通行人からすれば、傍迷惑なことこの上無い。
少年は一度立ち止まり、額から滝のように溢れ出す汗を腕で拭う。そして空を仰いだ。さんさんと輝く太陽が視線の先にあった。
「……たまには有休取って、他の天体に挨拶でもしに行けよ……」
ぼそり、と愚痴を呟く少年。しかし当然というかやはりというか、太陽は「はいそうですか」と他の天体の元へと挨拶に向かうわけでもなく、その場でさんさんと光り輝いていたままだった。そもそも少年の声なんて聞こえてすらないのかもしれない。
「…………チッ」
舌打ち。視線を地表へと戻す。そして彼は歩き出した。依然熱を放出し続ける大地の上を、顔をしかめながら。
「……何処かで涼んでいこうかな。まだ時間は――――」
げんなりとした様子で、呟くように一つ提案を浮かべてみる少年。しかしそれはとあるバイブ音によって制される。発信源は彼のズボンの左ポケット内から。
「……?」
そのバイブ音に気づいた少年。左手に持っていた手提げ袋を右手に持ちかえ、ポケット内からそれを取り出した。
――携帯電話。それが音の発信源だった。
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