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取り出した携帯の電子画面には“CALL”。加えて下部に添えられた“アゲハ”の三文字。
それを見た少年は軽く嘆息する。顔のげんなり具合が二割三分ほど増したように見えた。
「……タイミング悪すぎだろ。人が涼みに行こうとした直後に……」
次いでそう愚痴を吐きつつ、彼は通行の邪魔にならぬよう道の端に避けてから携帯を開いた。そしてダイヤルボタンを押し、携帯を自身の耳に当て――、
『ちょっとアキ! どこほっつき歩いてるの!? もう皆待ってくれてるんだよ!?』
――た次の瞬間、通話相手の怒鳴り声が少年の耳を、鼓膜を破りかねん勢いで突き抜けた。
耳を塞ぎたくなるようなキンキン声。その声の通話相手である彼は反射的に携帯を携帯から遠ざける。
「~~~~~!?」
予想だにしなかった怒声に、暫し呆然となる少年。しかし、驚き過ぎて呆けた顔を世間に晒すこと二秒、ハッとしたように再度携帯を耳に近づけ、通話相手に話しかける。
「……五月蝿い。そんなデカイ声で叫ぶな。鼓膜が破けるわドアホ」
『アキが早く帰って来ないからいけないんでしょ!? 自業自得だよ! ……それより! 皆を待たしてるんだから、早く帰って来てよね!?』
通話が途切れ、起伏の無い一定の波長を刻む機械音が彼の耳に入る。少年は携帯を耳に当てたまま、暫く立ち尽くしていた。
「くそ……一方的に切りやがった。そもそも、買い出しに行かせたのは“お前ら”じゃねーのかっつー話ですよ、まったく……」
また愚痴。少年は、今日何度目の愚痴か数えようとした。が、億劫になったので止めた。続けざまにくしゃくしゃと髪を掻き乱し、どうにもやりきれない様を世間に露呈する。
……が、どこか柔らかな表情を浮かべ、髪を掻き上げ口を開く。
「……まぁ、今日は大事な日だからな……。怒鳴るのも無理はない、か……」
意味深に呟いて、携帯をポケットにしまい、手提げ袋をしっかりと握り直し少年は走り出した。
――真夏を連想させるくらい暑いとある休日の昼下がり。“不幸な”少年が街路を駆ける。
大事な日を、大事な人と祝うために。前へ、前へと、一直線に――――。
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