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「……え」
瞬間、ハンマーで頭部を殴打されたかの如き重い衝撃が菅原を襲う。少しよろけた彼は顔だけを上げ、道奈を見上げた。
彼女は髪を弄るのをやめて、せわしなく指を交差させながら、少し頬を赤く染めていた。照れているのだ。告白されたことに。
しかし道奈は、頬を紅潮させながらも間の延びた声ではっきりと告げるのだった。
「……えっとぉ、菅原君の気持ちは非常に嬉しいんですけどぉ……、私にも好きな人がいるんですよぉ」
「え……」
再度菅原に、ハンマーで殴打されたような衝撃が走る。同時に、あまりのショックに身体が、心が崩れ落ちそうになってしまう。
敗れた初恋。知った失恋の苦み、失念の味。菅原は胸がきゅっと締め付けられる感じに襲われる。
ほろりと、涙が出そうになった。だが、それを瞼の裏に閉じ込め、菅原は言った。
「そっ……か。あの、ゴメン……」
「ん……こちらこそ」
「好きな人……居たんだ」
「…………うん」
「じゃあ……ダメ、だな」
「…………うん」
割り切れない、この想い。短い期間だったが、初めて味わったこの想いを菅原は終わりにしたくなかった。もう少し、長くこの恋を続けていたかった。
が、ここは自分が退くしかない。終わり、なのだ。自分の初恋は。彼女への想いは。
「上手く、いくといいな」
「…………うん」
「……頑張ってね」
「うん……。それじゃ私、用事、あるから……」
秋風が菅原の頬を撫でる。それと同時に道奈は菅原に背を向け、屋上を出ていってしまった。
菅原は一瞬、その背中を追おうとした。手を伸ばそうとした。彼女へ。
だが、届かない。追えない。動けない。根を張った植物が如く、彼はその場で立ち尽くすしか無かったのだ。
「…………くそ」
菅原は空を見上げる。曇り、だった。彼の心境を表現しているように、濁った曇天の空だった。
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