不幸1~始まりは突然に~

4/11
前へ
/14ページ
次へ
「……え」 瞬間、ハンマーで頭部を殴打されたかの如き重い衝撃が菅原を襲う。少しよろけた彼は顔だけを上げ、道奈を見上げた。 彼女は髪を弄るのをやめて、せわしなく指を交差させながら、少し頬を赤く染めていた。照れているのだ。告白されたことに。 しかし道奈は、頬を紅潮させながらも間の延びた声ではっきりと告げるのだった。 「……えっとぉ、菅原君の気持ちは非常に嬉しいんですけどぉ……、私にも好きな人がいるんですよぉ」 「え……」 再度菅原に、ハンマーで殴打されたような衝撃が走る。同時に、あまりのショックに身体が、心が崩れ落ちそうになってしまう。 敗れた初恋。知った失恋の苦み、失念の味。菅原は胸がきゅっと締め付けられる感じに襲われる。 ほろりと、涙が出そうになった。だが、それを瞼の裏に閉じ込め、菅原は言った。 「そっ……か。あの、ゴメン……」 「ん……こちらこそ」 「好きな人……居たんだ」 「…………うん」 「じゃあ……ダメ、だな」 「…………うん」 割り切れない、この想い。短い期間だったが、初めて味わったこの想いを菅原は終わりにしたくなかった。もう少し、長くこの恋を続けていたかった。 が、ここは自分が退くしかない。終わり、なのだ。自分の初恋は。彼女への想いは。 「上手く、いくといいな」 「…………うん」 「……頑張ってね」 「うん……。それじゃ私、用事、あるから……」 秋風が菅原の頬を撫でる。それと同時に道奈は菅原に背を向け、屋上を出ていってしまった。 菅原は一瞬、その背中を追おうとした。手を伸ばそうとした。彼女へ。 だが、届かない。追えない。動けない。根を張った植物が如く、彼はその場で立ち尽くすしか無かったのだ。 「…………くそ」 菅原は空を見上げる。曇り、だった。彼の心境を表現しているように、濁った曇天の空だった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加