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菅原が屋上から去ったのはそれから数分後のことで、彼は失恋のショックからか暫く放心状態であった。
「ふぅ……」
嘆息。その場に大木のように立ち尽くしてた彼は肩を落として屋上を後にした。頭の中にもやもやとした想いを宿しながら。
――――――――――――――――――
菅原は重い足どりでふらふらと、自宅に帰るべく、荷物を取りにか教室……二年四組までなんとか歩いた。
心境が心境だけに、とてもじゃないがまっすぐ歩けなかったのだ。それほどにまで初恋というものは、彼にとって大きなものだったのだ。
こんなにも気分が重い放課後は初めてだったと、後の菅原は語る。
そして場面は教室へ。
「…………ハァ」
また嘆息。何度目かと数えそうになる菅原は教卓側の扉の取っ手に手を掛け、それを開け放つ。
彼の目に最初に入ったのはガランとした人のいない教室と、
「……よう、晃斗。遅かったな」
その誰もいないはずの教室の教卓に腰をかけた一人の男子生徒だった。キザな感じのする少年。菅原の知人なのか、声を掛けてくる。
男子生徒に自分の名前を呼ばれた菅原はその声に反応せず、スタスタと自分の席である窓際最後尾席へと向かい、脇に掛けてあった鞄を肩に担ぐ。
すると、無視されたことが気に入らなかったような口調で、
「……おい、晃斗。なんか言ったらどーだい」
と、再び菅原の名前を呼ぶ。一方、やれやれと肩をすくめた菅原は、その男子生徒に応える。
テンションの低さに比例する声。第一声は酷く覇気のない声だった。
「……おう、弘(ヒロム)。居たのか、お前」
「居たよ。最初から。つか、教室で待ってろって言ったのお前じゃないか」
「そだっけ?」
「そーだよ」
弘と呼ばれた男子生徒が教卓から軽やかに下りる。そして教卓前の机に置いてあった自分の鞄らしきそれを手に取り、菅原に近づく。
「……で? どーだったよ、告白」
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