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あ
ドアが開いた事にも気付かないぐらい、
曲の世界を旅している彼女。
自分がまるで空気になってしまった感覚。
フッと音が止む。
夢から覚めたような瞳。
透き通ったガラス玉のような目が、こちらを捉える。
息の仕方を忘れるぐらいの緊張が沸く。
"今の曲は?"
いつも同じ音。
毎日気にしながら廊下を通っていた。
でも声が出ない。
『人形の夢と目覚め
オースティン作』
え?
驚いた。
声にならない問いの応えが返って来たから。
夕日が窓から差し込み、音楽室を橙に染める。
彼女の瞳もオレンジを反射して、ステンドグラスのようにキラキラと輝いて見えた。
実は彼女が人形なのではないのか。
そんな馬鹿らしい考えさえ、素直に出てくるぐらい彼女を"美しい"と思った。
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