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月明かりに照らされた障子は輝やかんばかりに白く、部屋の中に仄かな月明かりを及ぼす。
今日は満月の夜なれど、愛しの方はまだ現れぬ。
『まだでございますか…夜白様』
静寂に響いた声は鈴の音ほどに誰の耳にも届かぬ微かな吐息と化す。
障子は絶対に開けてはならぬと言われ続けて早一年。
夜白様が現れるようになってもう一年が経とうとしていた。
最近では起きているのでさえ、精一杯なこの身体。
起き上がれるのは待ちに待った満月の夜の時だけとなってしまった。
出会った頃は、障子を境に背中合わせで朝日が上るまで語らい合った。
顔は決して見えねども、父母より他に誰の目にも触れる事のない我が身など見られてよいものではない事は十分に理解している。
もう痩せ細った身体を摩ってみた所で熱が生まれるはずもなく、肩に掛けていた羽織りをゆっくりとまたかけ直す。
『今宵は満月がお美くしゅうございますか…?』
ただの戯れ言。
ただ貴方の声が聞きたいだけなのです…。
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