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自分の名はそう簡単には明かしてはならないと名を奪われ、呪縛を掛けられてしまうかもしれないとそう幼き頃から教えられてきた。
それは妖怪や鬼などに名を奪わないため。
奪われてしまえば最後。人の魂を欲する彼等に生命を奪われてしまうのだ。
しかし、もうそう永くはないこの生命。
人ならば関係のないこと、しかし人の屋敷に足音起てずに参る者はそういない。
その時、ふと賭けてみようと思った。
賭博などは全くやった事はないが、自分の後先短いこの生命を誰とも知れぬ、ましてやただの気まぐれやもしれぬ相手に渡してみようと思ったのだ。
゙私の名でございますか…?お姿が見えぬので解りかねますが、初めてのお方とお見受けしてご挨拶させて頂きます。私の名は和也。正真正銘の真の名でございまず
向こうからは暫し答はなく、静かな時間が間を流れる。
それはとても穏やかで、相手の答を待つ行為すら久しい和也にはただ少し擽り深い行為に感じた。
゙…我が名はない。和也、お前がつけてみろ゙
初めて会った相手、ましてや顔も拝見していない相手の名を勝手につけろと申すこの相手。
真の名を知られたくないためなのかも知れないが、和也にはただ楽しくて仕方のない行為に感じた。
゙ならば、遠慮なく。…夜の白い時にお見会になられた事をとって夜白様とはどうでございましょう?゙
゙…其方がそれでいいのなら゙
゙では、夜白様でお願い致しまず
゙あぁ…゙
不自然過ぎる出逢いとは正にこの事で、しかしこの日から夜白は約束した訳でもないが、満月の夜が白くなる頃に必ず和也の前に姿を見せた。
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