月夜の夢

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身体が温かい何かに包まれているのを感じ、そっと閉じていた目を開いていく。 月明かりに照らされて眩しい程に輝く髪。 絹のように柔らかな髪からはその者の強さを現すかのように生えた角。 何事も見透かすよう綺麗な紅の眼はこちらを見つめたまま止まっていた。 まさに今、時が止まったかのように… 夜白の腕に抱かれながら笑みを零す和也に夜白の眉間に皺が寄る。 『何が可笑しい…?』 『いえ、嬉しいのです。夜白様のお顔が思っていた通りお美しくて』 『…、ただの顔だ』 『そう言ってしまっては、皆ただの顔になってしまいます』 『お前の方は…人間らしい顔をしている』 『それは褒めて下さっているのですか?』 『そのつもりだが』 『夜白様は…本当に不器用なお方ですね』 『…綺麗などという在り来りな言葉は好かんな』 『私は男です。綺麗などとは無縁過ぎます』 そう答えれば、より眉間に皺を寄せる夜白。 『…人間はそんなに性別を気にするのか?』 『気にしてしまうからこそ、私はこうやって女のように育てられてしまったのでしょうね』 『…、お前はそれを恨むのか?』 『いえ。でも…、愛しい人に愛される人にはなりたかった』 『…それは叶わぬのか?』 『えぇ、私は男ですから。それでも今は幸せです』 そう言って微笑む和也の目には、泪が溢れんばかりに溜まっていた。 『夜白様…、お顔に触れても構いせんか?』 『…勝手にしろ』 もうそれに返す返事はない。 ゆっくりと伸ばされた手がそっと肌に触れた時、微笑む和也の泪が一筋零れた。 『満月…が…好きでした…』 『…あぁ、私もだ』 ゆっくりと閉じていく目からは泪の雫が落ちていく。 伸ばされていた手はゆっくりと床に崩れ落ち、微笑む顔はその時で止まったかの様に… 崩れ落ちた手を強く握り締め、全てを閉じ込めるかのように夜白は優しく和也を包み込んだ。 腕の中で眠る和也の顔に、一筋の泪が零れ落ちる。 その場に残ったものは、二人を見つめる月の明かりと睡蓮の香の名残のみ… END.
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