ディスプレイの向こう

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俺は安住 浩太(アズミ コウタ)。何の変哲もない高校1年生だ。 ……パッと見は、その辺にいくらでも転がっていそうな平々凡々の高校生。 容姿だって特別良いわけでもなく、だからといって不細工ってわけでもなく。 全くもってモテないってほどでもないが、告白なんて3年に1回あれば良い方だと思う。 成績は中の下、大して良くない。スポーツは中の上、体育の授業程度ならそれなりに楽しめるぐらいだ。 そんな突出した部分もない俺だが、1つだけ、趣味でもあり特技でもあるものがあった。 学校からの帰り道。誇るべき帰宅部の俺はホームルームが終わった後、真っ先に教室を出た。 無論、早く家に帰るため。 高校生なら、学校帰りに店に寄って軽食でも食べながらお喋りをするのかもしれない(俺の偏った知識だけど)。 でも俺は、そんな腑抜けたことをするよりも大事なものがあった。 自転車を漕ぎ、ちんたら走る女子学生たちを抜き去る。 「うわ、何あれ超速いんですけど」 「汗だくだったねー」 「必死の形相だったんだけど。ウケる」 背後でそんな話し声が聞こえた。 ふん…健全な男子学生が汗をかいて何が悪い。 帰宅部の俺にはこのぐらいの速度が丁度良い運動になるんだ。 そもそも、自転車で並走するな……邪魔だっての。 胸中で不満をたれながら、俺はスピードを上げた。 自転車を漕ぐこと約20分、俺は自宅に着いた。 鞄からタオルを出し、汗を拭いながら鍵を取り出す。 カチャリとドアを開け、俺は家の中へ入った。 うちは両親と俺の3人暮らしだ。両親は共働きのため、俺は昔から、俗に言う鍵っ子ってやつだ。 家に帰っても誰もいない。 近所に同級生だっていない。 だから、そんな俺が行きつく先は…… 自室の扉を開けると、部屋中に広がる無数のコード。 あらゆるゲーム機が、部屋にひしめいている。 そう。俺はゲーマーだった。 どのジャンルのゲームも完璧にこなせる自信がある。 一度市で行われた、アクションゲームの大会で優勝だってした。 そんなゲーム大好きの俺が、今ハマっているゲーム。 数々のゲームのうち、一つのゲーム機の電源を入れる。 テレビをつけると、ディスプレイ上に薄いピンクの映像が表示された。 『きゅんきゅんメモラブル』 ゲームのタイトルが表示された。 ……そう、俺のハマっているゲーム。 それは、いわゆるギャルゲーだった。
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