ディスプレイの向こう

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”雨宮 さくら” 見覚えのありすぎる名前に、俺は絶句した。 だって…この名前は、きゅんきゅんメモラブルのメインヒロインの名前だからだ。 俺が真っ先にクリアしたヒロインだ。 文学少女でいつも休み時間には本を読んでいる。男に慣れていないのか、初めは話しかけてもビクついていたが好感度が上がるとよく笑顔も見せてくれて、結構可愛い。 それにとても健気で、主人公をひたむきに想ってくれるキャラクターだ。 確か、出会いは下駄箱だったよな… …なんて、そんなわけないか。 いくら私立はなやぎ学園の制服を着ることになって、同じクラスにはメインヒロインと同姓同名の奴がいたとしても。 まさか、ゲームそのものってわけじゃないだろう。 それにしてもこの異質な状況は何なのか。 俺はまだ夢を見ているのではないか。 頬を抓ると、普通に痛かった。 ………。 考えていても仕方ない。とにかく、自分の教室に行こう。 そう思って玄関をくぐり、俺は下駄箱で持ってきていた学校指定のスリッパに履き替えた。 方向転換をしたところで… ドンッ 「キャッ」 誰かにぶつかってしまった。 バサバサ、と抱えていたであろう本が数冊落ちた。 「あ…ごめん」 「い、いえ…こちらこそごめんなさい…」 俺は本を全部拾い上げると、持ち主に差し出した。 相手はそれを受け取る。 そこで、俺は目をこれでもかというほど見開いた。 「…………!」 「あ、拾ってくれてありがとうございます…」 「雨宮…………さくら……?」 何度もやりこんだゲームだ。見間違えるはずがない。 きゅんきゅんメモラブルのメインヒロインである雨宮 さくらが、目の前に立っていた。 少し違うのは、2次元だったアニメ映像が実写化されているということ。 しかしその美貌たるや2次元映像でも引けを取らないほどで、思わず感嘆の息が漏れるほど。 俺は目を瞬かせた。 「え…?どうして私の名前……」 「あ……いや…。それより、この本……好きなんだ?」 俺は彼女の持っている本の一番上の本を指差した。 話しかけられたことにびっくりしたのか、彼女は肩を面白いぐらいにビクつかせた。 「へ……っ!?あ……は、はい。す…好きです」 「これ、面白いよな。俺もお気に入りの一冊なんだ」 この言動は、最初の選択肢ポイントだ。 本の話題を出すことで、彼女の好感度が上がる仕組みになっている。
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