ディスプレイの向こう

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「え…、本当ですか?これ、面白いですよね」 雨宮さくらは顔を輝かせ、先程のビクビクしていた様子とは打って変わって笑顔を見せた。 うん、可愛い。 「ああ。なんと言っても、中盤の展開が好きだな」 「あ、わかります…!主人公と喧嘩別れになった友人が助けに来て……って、すみません、私…っ!」 自分が興奮していることに気が付いたのか、雨宮さくらは慌てて口を閉ざした。 「いや、俺こそこんなに話せる人いるとは思ってなかったからさ。嬉しいよ」 「私も、この作品知ってる人に出会ったの初めてです」 この台詞も、何度聞いたことか。 これは強制イベントだから、誰を狙うにしても必ず通過するポイントだ。 台詞はもう覚えてしまいそうなほど、俺はきゅんきゅんメモラブルをプレイしたからな… 「俺は5組なんだけど…君は?」 「あ、私も5組で……」 「そうか、これからよろしくな。俺、安住浩太っていうんだ」 「こちらこそ…よ、よろしくお願いします。私は雨宮さくらっていいます」 うん、知ってる。 君の好きなもの、好きなタイプ、好きな食べ物……。何でも。 なんて、ストーカーみたいだからやめておこう。 俺は雨宮さくらと別れ、5組に向かった。 まさか、同姓同名で驚いてはいたが本人だったとは。 一体どうなっているんだ? ここは、正真正銘あのゲームの舞台、はなやぎ学園なのか? 何でこんなことになってる。 夢ならば好き放題するが、あまりにもリアルすぎて夢とは思えない。 「やっぱ、現実なのか…」 「なにが?」 「!?」 背後から声をかけられ、俺は驚きすぎて奇声を発しそうになった。 振り返ると、そこには男子生徒が立っている。 ………ん? この生徒、ものすごく見覚えがあるぞ…。 「あ、驚かせた?わりぃわりぃ。でもさ、教室の前で突っ立ってたから入れなくて…」 「………あ」 気が付けば、俺は教室の前だった。 考え事をしていて、自分が今どこにいるのかすっかり忘れていた。 「ごめんな」 「いいって!それより、お前も5組なの?」 男子生徒はにこやかに笑った。 何だ、この爽やか好青年は…… 「ああ、そうだ」 俺が教室に入ると、その生徒も背後をついてくる。 「俺も5組なんだよ。よろしくな」 「ああ」 「俺、東雲 理一(シノノメ リイチ)って言うんだ」 「……!!」 しののめ、りいち。 そのとき俺は、この男のことを思い出した。
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