ディスプレイの向こう

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「あー…悪い。今ゲーム家にないんだ」 「え、何で?」 「えっと……親戚の子供に全部貸しててな…」 こんな言い訳しか思いつかない。 そもそもこの世界の俺って、親戚に餓鬼なんているのか? 主人公の詳しい家系図なんてさすがに知らないぞ。 「なーんだ」 「悪いな」 「いいっていいって。だったらさ、今度俺ん家来いよ」 「え?」 東雲はニッと人懐っこい笑みを浮かべる。 「ゲーム好きなんだろ?俺ん家で一緒にやろうぜ」 「……………」 「おい、どうした?何でそんな変なもの見るような目してんだよ」 「いや…」 友達の家で一緒にゲーム…なんて。 そんなの、今までの俺では考えられないことだ。 ゲームは1人で黙々とするものだと認識していただけに、東雲の言葉は寝耳に水だった。 「俺…今まで誰かと一緒にゲームとか…したことないから」 「えっ」 恥を忍んで素直に言えば、東雲は案の定目を丸くした。 「…ほら俺、シャイなとこあるから」 「ぶはっ」 俺の言葉に、東雲は噴き出した。 「口に出してそう言う奴はシャイじゃねーよ!」 「実際、一緒に遊ぶような友達はいなかったぞ」 「なら、俺が第一号だな!」 東雲は笑いながら、俺に手を差し出した。 「………?」 「握手だよ握手。俺はもうお前のこと友達だって思ってるけど、シャイボーイちゃんにはこれぐらいの挨拶しておかないと、俺の片思いになるかもしんねーだろ?」 その眩しいほどの笑顔に、俺は呆然とした。 「…俺みたいなコミュ障、面倒だとか思わないのか?」 「思わない。むしろ何で今まで友達いなかったんだよ?話してみるとこんなに面白い奴なのに」 「…………」 何故か、涙が出そうになった。 人ってこんなに温かいのか。 ずっとゲームばかりやってきた俺は、友達なんていらないとまで思っていたのに。 この男は現実に存在しない、架空の人物だ。 それでも、俺の初の友達。 嬉しくないわけがなかった。 「ほら、握手。よろしく安住!」 差し出された手を、俺は恐る恐る握った。 「……ああ、よろしくな」 このときは、まさかあんなことになるなんて予想もしていなかった。 菘ちゃんを狙っていたはずなのに。 菘ちゃん一筋だったはずなのに。 俺の中でこの男が、何よりも大きい存在になっていくことを、今の俺はまだ知らない。 End
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