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見慣れた住宅街を歩く。
ここは、俺の生まれ育った街。
辺りは夕闇に溶け込む直前。
この時間帯が一番目が慣れない。
そんな、俺が歩く方向の先数十メートル。
バス停で携帯を片手に立っているシズの姿を見つけた。
小奇麗な長袖ワンピースで、髪はアップにしている。
「あ、輝ー!こっちこっち」
幼馴染であるシズが、俺に気が付いて手を振った。
俺もそれに応えるように、手を振り返す。
「輝、本当に和華たちの言う通りにしたんだね…」
近くに来た俺をマジマジと見るなり、感心したようにため息をついた。
「まあ……あいつらに逆らうとろくなことないしな」
「……ふふ、確かに。でも輝、無理にそんな格好しなくても良かったんだよ?輝は女の子なんだから…」
そんな格好、というのは、スーツ姿だ。それもメンズの。
別に俺が好んでこの格好をしているわけではなく、和華と小海がどうしてもというのでこの格好になった。
あいつらの企みそうなことではある。
今日は、中学校の同窓会。
今までも何度かお誘いはあったが、予定が合わなくてずっと参加していなかった。
それが今回は、たまたま時間が合って。
何年ぶりになるだろう、俺はもう今年度でハタチだ。っていうか、どうせ成人式で顔を合わせることになるのに…この時期に同窓会とは。
「はは……。まあ、中学時代の知り合いは…こっちの姿のがしっくりくるだろうけど。それに和華いわく、二次会前には女の姿にするってよ」
一次会はホテル、二次会は居酒屋とのことだ。
こういうときって、服装に困るよな。
「何それ、お色直しみたいな?」
「そんな感じらしい」
「…もう、和華も小海も、輝で遊びすぎ。おもちゃじゃないんだから…」
ぷんすかと、俺のために怒るシズに俺は「いいよ別に」と苦笑した。
「今の生活もほとんど男みたいなもんだし、むしろこっちの方が楽だな。もし女の格好して来いって言われても、どうすればいいか分からない。お色直しのときは和華たちが協力してくれるみたいだから」
服も準備すると言って張り切っていたし、任せっきりでいいだろう。
「…輝、嫌なことは嫌だってバシッと言ってね?」
「ああ、そうする」
丁度そのとき、バスがやって来た。
和華と小海はいち早くホテル近くの繁華街に行っているらしい。ショッピングしたいんだとか。
「じゃ、行こっか」
「そうだな」
俺たち2人はバスに乗り込んだ。
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