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バスを降りて、目的地であるホテルへと向かう。
バスの中では周囲からの視線が痛かった。
みんな俺を完全に男だと思っていたようで、「あの人カッコいい」と女性たちが騒いでいた。
「あ、輝ーっ」
もう目の前にホテル、というところで、和華たちに出くわした。
どうやら2人も今まさに到着したようだった。
「よかった、間に合ったわね」
和華はバッグに手を突っ込み、ゴソゴソとする。
少し胸元が見えるか見えないかの絶対領域を死守しているセクシーなワンピースを着ている和華は、大人な女性が好きな男ならイチコロだろうなと思った。
「輝にはね、さらにポイントアップを狙ってもらうよ!」
「何のポイントをアップするんだよ」
小海が至極楽しそうに話すが、言ってる意味がよく分からない。
小海はとてもじゃないが20歳に見えなかった。
まだ中学生ですと言われても納得できるほどだ。相変わらずのロリッ子である。
「はいこれ」
和華に差し出されたのは、黒縁メガネだった。
「……なにこれ?」
「メガネよ」
「見れば分かるわ」
俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて……いや、こいつらの考えることだ。なんとなく察しはついた。
「萌えの追求は怠らないんだな…」
「今のままでも十分格好いいんだけど、これをつけることで色っぽさは三割増しよ」
「お前らは俺に何を求めてるんだ」
「男装系女子って、素敵よね」
「…………」
完全にこいつらのいいように遊ばれている。
シズはおろおろと俺を見上げた。
そして2人に視線を戻す。
「あの2人とも、あんまり輝で遊ばないで」
「…シズ、私たちも別に、強要しようとしてるわけじゃないのよ。輝が嫌がるなら諦める」
「あくまでも私たちの希望だからさっ」
「………うぅ。輝、いいの?」
心配そうにシズは俺に尋ねた。
………まあ実は内心、少し楽しんでいる俺がいる。
実際スーツもそれなりに似合ってるとは思っているし、メガネをかけることでさらに色気が増すだろうとも思う。
それで中学時代のみんなの反応がいかなるものか、楽しみでもある。
「ああ、いいよ。ここまできたら俺も追求したい」
俺はそう言ってメガネをかけた。
「…………!!」
和華は俺の姿を見るなり、ティッシュを鼻にあてる。
「輝……っ、サイコーだよぉ!」
小海はパシャパシャと写メを撮った。
どうやら、黒縁メガネの効果は絶大だったらしい。
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