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教え子たちの拍手に包まれ、先生方が前へ進んで行く。
先生の入場が終わると、再び谷川が口を開いた。
『それでは、代表幹事である私谷川から挨拶をさせていただきます』
「おいおい谷川、”わたくし”なんてキャラじゃねーだろー」
「何畏まってんだよー」
男子たちからの野次が飛ぶ。
まあ確かに、違和感はあるけど…社会人になればこんなの当たり前だろうし。
『……こっちが真剣にしてるってのに、全くお前らは…』
谷川は呆れたように表情をしかめた。
『こうして学び舎を共にした中学時代の仲間と出会えるのも数限られています。短い時間ではありますが、せっかくのこの機会…存分に楽しんでください。……ってのが、俺が考えてきた挨拶。確かに堅苦しいの面倒だから、言わせてもらうけど。俺を幹事に推薦した奴は、あとで絞めに行くから』
どっと笑いが起こった。
いいぞー、とどこからともなく声が上がる。
『…じゃ、あとは司会にバトンタッチってことで』
ああ、司会ではなかったのね。
どうやら谷川の出番はここまでらしい。
別の幹事にマイクが渡り、恩師紹介が始まった。
そして恩師代表の挨拶も終わり、いよいよ乾杯。
会食の時間が始まった。
「さ、食べよ食べよー!」
小海が喜々として食事に飛びついていく。
俺たちもその後に続いていった。
「輝くん、今って何してるの?」
皿に食事を乗せていっていると、隣に立った元クラスメイトが話しかけて来た。
「大学行ってる。そっちは?」
「私はアパレルの仕事やってるよー」
「へぇ…確かにお洒落だもんな。その髪型もドレスも、すごく似合ってる」
「えっ」
感心してまじまじと上から下まで見ながら言うと、相手は顔を赤らめて驚いたように目をパチクリさせた。
「もう輝くんたら、お世辞が上手いんだから!」
「お世辞っていうか…思ったことをそのまんま言っただけだけど」
「ええっ」
急に相手はそわそわし始めた。
そこで初めて俺はハッとする。
「あ、ごめん。そのつもりないんだけど、タラシみたいになったな」
「う…ううん!輝くんにそう言ってもらえると、たとえその気がなくても嬉しいから!ありがとう!」
やっちまった。
これが天然タラシと言われる所以だな。
その後も女の子たちが話しかけてきて後を絶たなかった。
少し離れたところでご飯を食べていても話しかけられ、気が休まるときがない。
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