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「こちらアールグレイです」
「あ、それあたしです」
可愛らしい花柄のティーポットとカップが目の前に置かれる。
店員さんがカップに紅茶を注いでくれた。
アールグレイの爽やかな香りが鼻をくすぐる。
「こちらはストロベリーチョコのパンケーキです」
「…………俺です」
谷川は、ぶっきらぼうに小さく手を挙げた。
店員さんは谷川の前にお皿を置くと、一礼して去っていった。
「………何だよ」
「いや、別に」
「嘘つけ、何だよそのニヤけ顔は!」
「え?」
やばい、顔に出てたのか。
だって。だってだぞ?
谷川がストロベリーチョコのパンケーキですってよ。
女子なら「これカワイー!写メ撮っちゃお☆パシャ☆」っていうテンションになりそうなパンケーキ。
何かいつも不機嫌そうな谷川が、実は甘党でこんな可愛いパンケーキを食べるなんて…そんな……
「面白くないわけないだろ…」
「声に出てんぞオラ」
「あ、いっけない」
「くっそ腹立つなお前!」
あたしはここぞとばかりに谷川をからかった。
だって、今までどれほどあたしが谷川に嫌な思いをさせられてきたか。
デリカシーのない発言にあたしが傷ついていないとでも思ったか?
「ほらほらぁ、早く食べないと冷めちゃうぞー?」
「うっせーな、言われなくても食うっつーの」
谷川は眉間にしわを寄せたまま、不機嫌そうにパンケーキを切り分けて豪快に食べた。
おお…良い食べっぷり。
「お味は?」
「……美味い」
「よかったな」
「………ああ」
あら。素直だこと。
まあ、食べ物に罪はないもんなぁ。
素直な谷川を見るのは新鮮だ。
いつも毒ばかり吐くもんだから。
「それにしても…甘いもの好きなんだな」
あたしはアールグレイを一口啜る。
あ…美味しい。心がホッと落ち着く。
「別に、今時男が甘党でも普通だろ。悪いか」
「何でそんな喧嘩腰なんだよ。悪いなんて一言も言ってないだろ」
「お前の目が笑ってるからだろ」
「仕方ないだろ微笑ましいなって思ったんだから」
「微笑ましい!?」
谷川はひくひくと頬を引きつらせた。
「何なら可愛いとさえ思ったけど」
「可愛い!?」
悪寒が走ったような青ざめた表情をする。
よっぽど不快らしい。
「お前な、面白がってんだろ!!」
「そりゃあそうだろ。普段のお返しだ」
あっはっは、とあたしは高笑いした。
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