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谷川に言われるままに、渋々ジュースを飲む。
「あ、美味しい」
「だろ。それなら飲めるはずだ」
「うん…」
ほどよく甘くて、さっぱりしている。
気を遣ってこれを勧めてくれたことに感動した。
「その新作は結構いけるのか?」
「…そうだな。先月のが美味かったけど」
「へぇ…」
谷川が飲んでいる新作は、桃をふんだんに使ったジュースだった。
人工的な甘いものは苦手だけど、フルーツは好きだ。見た目的にもとても美味しそうに見える。
じっと見ているのが落ち着かなかったのか、谷川は「なんだよ」と眉を寄せてこちらを見た。
「飲みてぇのか?」
「あ、いや……美味しそうだなーって」
「頼まれてもお前になんかやらねぇ」
挑発するようにフン、と鼻で笑われ、カチンとくる。
「あたしだって、あんたが飲んだ中古品なんてお断り」
「なんだと?」
「そっちが先に喧嘩売ってきたんだろ」
中学生でまだまだ子供のあたしたちは、ひょんなことから口論になる。
相手が谷川だと、売り言葉に買い言葉ですぐさま喧嘩に発展してしまう。
この日も例外ではなかった。
結局喧嘩別れのようになり、奢ってもらったお礼も言わずに逃げるように家に帰って来てしまったことに気付いたのは、お風呂に入って怒りのほとぼりが冷めた頃だった。
「あ、お醤油切らしてる」
日曜日、夕食作りの手伝いをしていると母さんがあちゃー、と困ったように言った。
「あたし買って来るよ」
「え、ホントに?さすが輝、助かるよ」
いつもなら莉子も着いてくるところだが、どうやら日曜日は好きなアニメをしているようで、そちらに熱中している。
お金を預かって自転車に乗り、5分圏内にあるスーパーへと漕ぎ出した。
しかしそこで、今朝の新聞の中に入っていた広告の中身を思い出す。
そういえば…今日はもう5分漕いだ先のスーパーが安いんだっけ。どうせなら安く済んだ方がいいし、まだ明るいからそっちまで行っちゃうか。
往復20分にはなるけど、夕飯もそんなに急ぎじゃないしいいか。
そう思い、あたしは進路を変えた。
もうじき目的地に着く頃、前方に見覚えのある姿を捉えた。
もしかしてあれは、谷川ではないだろうか。
何やら大きな段ボールを抱えている。
「お父さん、これどっちに運んでりゃいい?」
「それは納屋に頼む」
「オッケー」
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