【リク5】中学校の同窓会

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谷川の父親と思われる男性は、灰色の作業着のようなものを着ており、頬や鼻は煤で黒くなっている。 段ボールを納屋に運ぼうと谷川は向きを変え、こちらを向いた。 「…………………」 「…………………」 「…………やあ」 やあって何だよ。 咄嗟に出た挨拶に、自分で恥ずかしくなる。 谷川は幽霊でも見つけたかのような目で俺を凝視してくる。 「家の手伝いしてるんだな…関心したよ」 「…………」 「じゃ……じゃあ、あたしはもう行くからさ」 「おい、その子は誰だ?」 しかし、谷川の父親に呼び止められた。 谷川は「何でもねぇよ」と小さい声で言うが、父親には聞こえていない。 「えらい男前さんだな。友達か?」 「「!」」 「えっと…あの…」 どうやらあたしは男だと思われているらしい。 確かに、今の格好はジーパンにパーカーで、男に見えても仕方ないだろう。 あたしが返答に困っていると、谷川が耐えきれないといったように吹き出した。 「…プッ、あはははは!」 「……どうした?」 「お父さん、こいつ女だよ」 「えっ?」 谷川の父親は、目を白黒させてあたしを見た。 「クラスメイトの坂月です。………女です」 「ええっ」 谷川はお腹を抱えて大笑いしており、父親は驚きと焦りを隠せない様子でしどろもどろになった。 「そ、そうだったのか……えらくボーイッシュなもんだから…す、すまんな!いくら何でも失礼だったな!」 「いえ…慣れてますから」 それよりも、問題は大笑いしているこいつだ。 あたしがジトリと谷川を見ているのに気がつくと、谷川の父親は「こら」と軽く拳骨を落とした。 「いてっ」 「そんなに笑うな。坂月さんだって不快になるだろう」 「んなこと言ったって面白いもんは仕方ないだろ。良かったなー坂月、これでまた一歩、男に近づいたな」 「お前な、いい加減にしろ」 「いてっ」 2人のやり取りに呆然としていると、父親が無理矢理谷川の頭を押さえ込み、一緒に頭を下げた。 「すまない、坂月さん」 「そんな、やめてください」 「いや。中学生の女の子に向かってあんなことを言っちまって、傷つけたよな。お詫びとしては何だが、家に上がって行かないか?お茶でも出すぞ」 「ちょ、お父さん!こいつを家に上げるのかよ!」 「こいつじゃないだろ!」 父親に一喝され、谷川はぐっと押し黙る。
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