ブラックアウト

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 滲む視界にピントを合わせて見てみれば、さっきまで誰もいなかった一つのテーブルを囲うようにして男達が立っており、その傍らにいる永茂が手招きをしている。  やはり帰っておけばよかったと後悔しつつ、奴等の元へ歩いていく。  纏いつく不快な視線を撥ね付けて近付くと、男の一人が用意してあったカードを切り、慣れた手つきで配っていく。その間に永茂は初老の男に呼ばれ席を外し、必然的に取り巻き達とポーカーをする羽目になった。  人数の関係上男の一人は手持ち無沙汰になったが、ゲームが始まると何気ない風を装って立ち位置を変え、髪を触ったり欠伸を噛み殺す仕草をしている。  悟られないよう巧みにやっているつもりだろうが、あからさま過ぎて仲間へサインを送っていますと自白しているようなものだ。  まあしかしわざわざ指摘してやる義理もないし、寧ろそのパターンを覚えてしまえば相手の手の内が手に取るように分かる。  間抜けだなこいつらと胸中でぼやきつつこれでイーブンに、いや俺が有利になったとほくそ笑む。  案の定、始めは余裕こいていた奴等も、俺が勝ち続ける度に顔が次第に引き攣っていき――――今に至る。  さて、どうやってこの場を切り抜けようか。  悠斗はその事だけに思考を切り替えた。  持ち前の口八丁で丸め込もうかとも思ったが相手は興奮状態で、まともに会話できるか怪しいものだ。逆に神経を逆撫でして状況が悪化する可能性も否定できない。  何事もなかった事にするなら永茂に頼むという手もあるが、それだけは絶対に使いたくない。精神衛生上大変よろしくないし、何よりプライドが許さない。  弁舌も駄目、権力に縋るのも駄目。ならばと悠斗が弾き出した最後の手段。  今まで他の連中にやってきたように、二度と俺に逆らえなくなるくらいに、圧倒的な暴力を以て捻伏せればいい。  出来る限り穏便に済ますという選択肢は一瞬上がったが、即刻削除した。  生温い方法では相手が付け上がって、もしくは万が一不意を突かれて形勢逆転された時、考えられる限りの最悪のケースに発展する可能性が大。  恐怖で身を退く風を装って、そっとデニムに触れる。ポケットに忍ばせている折り畳み式ナイフは、布越しでも柄の硬質な感触が分かる。奴等がこれの存在に気付いている気配はない。
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