ブラックアウト

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 その日も、何の変哲の無い一日で終わると信じて疑わなかった。 「――――ほらよ」  そう気怠く言い、雅悠斗(みやびゆうと)は持っていた五枚のカードを晒した。手持ちはスペードのエース、ジャック、クイーン、キング、ジョーカー。  途端に周りにいた男達は眼を剥き、耳障りな騒音が飛び込んでくる。 「はあっ!? ざけんなよお前イカサマしただろっ」 「何でロイヤルストレートフラッシュが連チャンで揃うんだよ」  他にも似たような言葉が投げられ、いい加減に聞き飽きたと些かうんざりして悠斗は内心で深い溜め息を吐いた。  別にイカサマなんかしていない。つーかお前ら全員グルでやってるくせによくそんな事言えるな。  普段ならそう言い放ってさっさとこの場を去ればいいだけの話だが、こいつらはいつも相手にしている連中と違い、下手にあしらうと後々面倒になる奴等だからそうもいかない。  いわゆる、札付き。  窃盗、暴行、恐喝、麻薬、殺人等々。自己の悦楽と金が手に入るならばどんな事も厭わない、腐った世界に片足を突っ込んだ哀れなクズ共だ。  ――――俺が言える立場じゃないが。  今度は軽く溜め息を吐き、悠斗は己を囲っている男達を刺激しないようそっと周囲を確認する。  相手は十代後半から二十代と思しき若い男五人。常人なら思わず身を竦ませてしまう目付きの鋭さに息苦しい眼圧。耳や鼻にピアスをしている。チャラついた格好の奴等の手には、もはや馴染み深いだろう凶器がちらついている。  たかだか十連勝しただけでキレるとは、単細胞丸出しだな。金なんか他から幾らでも巻き上げてるくせに。  場違いな感想を抱きながら、シャープな眼鏡の奥にある切れ長の眼をうっそりと細める。 「おや、どうやらピンチのようだねぇ秀才クン」  おどけた調子で投げ掛けられた声に肩越しに振り返れば、今の状況に追い込んだ元凶である永茂(ながしげ)の姿。  にやにやと悪怯れる事なく笑っているこの男、窃盗と殺傷事件を何件もやらかしているにも拘らず、一向に逮捕される気配が無い。マスコミが騒ぎ立ててもそれはほんの一時で、すぐに他の情報が流れて鎮静化する。  如何せん永茂の父親は警視庁の重鎮。事件の揉み消しなど容易いだろう。はっきり言ってやりたい放題なのだ。
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