ブラックアウト

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 小学校からずっと同じクラスのこの男は、あの日を境にやたらと絡んできて自慢げに犯罪歴を語ってきた。父親が警視総監である事も然り。  俺等とつるめと幾度となく勧誘されたが、いつも丁重に断っている。察するに一方的に気に入られているらしかった。  ――――目障りだ。お前さえ現れなければ、こんな面倒に巻き込まれなかったのに。いや、自業自得というべきか。  足の配置と周りにいる男達の行動に気を配りつつ体を半分だけ向け、悠斗は腹の内で毒吐き自嘲した。  帰宅途中にたまたま永茂と出くわしたのが運のツキだ。  昔から通っている賭場で一稼ぎして、そろそろ帰ろうと祖父の家の方角に向かって歩いていたら、俺に凶器を向けている連中を引き連れた永茂と鉢合わせたのだ。  勿論、今までにここら辺で永茂の姿を見掛けた事はあったから、こちらが先に気付いたら避けるようにしていた。  今日は奴等の姿を見ていなかったからいないだろうと踏んでいたのだが、認識が甘かった。あの場で面と向き合うのは初めてだった。  まさかこんな形で会うとは思わなかったと形だけの挨拶を交わし、普段通りのふざけた話を相槌を打ちながら聞き流していると、不意に真剣な声音でこいつらと一勝負しないかと、取り巻きの連中を指差しながら持ち掛けられた。  流すように顔を拝見する。どの顔も裏社会でちらほらと名を上げている面子で、下品な笑みを浮かべて侮蔑の眼で俺を見ていた。  厄介ごとに発展するのは目に見えていたし、さっさと帰りたかったのだが、結局は是と返答した。  誘いに応じたのは不純な好奇心からだった。  奴等がどの程度できるのか興味あったし、刺激的だと思った。一杯食わせたいっていう些細な一物を腹に抱えていたのも事実だが、何より死と隣り合わせって、金では買えないスリルだからな。  最近はマンネリが増えて退屈していたところだ。そう思って誘われるがままに暗がりの路地裏に入ると、腐敗臭が鼻腔を刺激した。何らかの異物が放つ、吐き気を誘発する据えたような異臭だ。
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