ブラックアウト

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 入り組んだ路地裏は奴等の縄張り。おかしな奴が入り込んだ時に即座に処理できるよう、何処かで奴等の仲間が見張っているはず。そいつらが始末したモノが、何処かに放置されているのだろう。  思考を巡らせながら歩いている途中、竣工まであと僅か、あるいは取り壊し中のビルがふと目に留まった。入り口が見当たらない代わりに非常階段がある。何のビルだろうか。  不快感を堪えながらそんな事が頭を掠めたが、突き当たりの古臭い扉をくぐる時には、すでにビルの事は頭から消えていた。  薄闇に慣れた眼は突然入り込んだ閃光に眩み、思わず足を止めた。  耳障りな騒音に眉をひそめ閉じていた瞼を上げれば、拓けたカジノが視界に映った。  レッドカーペットが敷かれ、シャンデリアも細部にまで凝った豪勢な作りになっている。防音設計になっているらしく、客の品格の欠片もない笑い声もけたたましいBGMがガンガン流れても、扉を閉めてしまえば音が外界に漏れる事はない。現に入り口を開くまで路地裏は静寂に包まれていた。  屋内は薄らと煙が漂っており、よく見るとスロットは回転数が半端なく、客達がベットするチップの額も桁違いだった。  これ程の規模の違法カジノ、よく今までガサ入れが無かったものだ。いや、それとも見逃されているのだろうか。  感嘆も顕にしつつ、おそらく後者だろうと見当を付ける。何故なら永茂が居るからだ。  ここに来るあいつの足取りに迷いはなかった。つまりこのカジノに少なからず通い詰めているということ。  情報網は蜘蛛の巣のごとく張り巡らされている。息子が入り浸っているカジノを摘発しようものなら、色々とややこしい事態になるに決まっている。わざわざ自分の痛い腹を探るバカはいない。  そこまで思考を巡らせてふと振り返ってみると、永茂とその取り巻きの姿が無かった。  惚けている間に移動してしまったのか、すぐさま目を走らせるが見当たらない。入ってきた扉から出ていった形跡もない。  胸中に薄らと広がる嫌な予感に、今のうちに帰ろうかと足を一歩踏み出した途端、背筋を這う悪寒がして視界がブレた。  膝から力が抜けそうになり、少し焦って、だが周囲に悟られぬよう気力で持ち直す。  ――――心なしか、気分が悪くなってきた。  人がそれなりに多いのと、タバコやマリファナの煙で空気が淀んでいるせいだ。  顔を顰めていると、己の名を呼ぶ声が届いた。
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