『想い人』

4/11
前へ
/90ページ
次へ
  「ああ、いえ」と女性が申し訳なさそうに言う。「あなたがここから去ることはありませんよ。退屈でしたなら話し相手くらいにはなります」  さっきの独り言を聞かれたのだろう。頬が熱くなるのを感じた。  それに俺はもうすぐ死ぬ身だ。今さら人と触れ合ってどうするというんだ。 「さあ、どうぞ。どんな話でもばっちこいです」 「…………」  気付くと、俺はベンチに座っていた。自分でもなにをしてんだろうと思ってしまう。  まあ、いいさ。人生の最後くらい、誰かと言葉を交わすというのも面白い。最後の十五分くらいは楽しませてもらうか。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加