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私もそろそろバイトの時間だ。
初日から遅れて行く、なんて真似は出来ないし、したくない。
なにせ、夏いっぱい―42日間は働かせて貰うのだから。
今年は祝日やら記念日やらで夏休みが異様に長い。
まぁ、私にとってはその間ずっと働けるわけだから、両手を挙げて喜べるわけだけど。
何でそんなに働くのか、というのは中学の時から問われていた。
中学生がバイト、というのは流石に駄目だろう、と当時は新聞配達をしていた。
そんな頃、クラスメイトにはよく問われた。
私はいつも決まって
「貧乏だからね。仕方ないでしょ?」
と最後に笑って答えていた。
――まぁ、今はそんなことはどうだっていい。
とりあえず、バイト先に向かわないと…
そう思い、校門に足を向けた時、鞄の底からくぐもった電子音が聞こえてきた。
こんな時間―まだ12時にもなっていないのに、一体誰だ、と迷惑がりながら携帯電話を取り出す。
沢山の傷が付き、所々の塗料が剥げてしまったかなり旧式の携帯電話は、無遠慮に大きく歌っている。
ディスプレイを開く必要もない、固定電話の子機ような電話は高校入学祝に母が私にくれたものだ。
…勿論、それは母の使い古しだったわけだが。
そんな、ある意味思い入れの深い携帯の通話ボタンを押す。
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