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家が近付くにつれ、暑さと息苦しさは増すばかりだ。
そして言い様のない…不快感、だろうか。
なんだか黒い靄(モヤ)のような、そんな気持ちも増してくる。
やっとこの熱から解放される―そう安心して扉を開けた途端、その靄のような気持ちは堪えきれなくなったように霧散した。
ふっ、と楽になった胸に気を取られる前に、私は部屋の様子に呆気に取られた。
何も、ない。
生活必需品と呼べるものや、家財道具がなくなっている。
あるのは、もとからこの部屋にあった畳と、小さなちゃぶ台だ。
ちゃぶ台、と表現していいのか…脚を折り畳んで収納できる簡易の机だ。
「……お母さん?」
一応、声を掛けてみるが、人の気配はない。
玄関に靴も置いてないんだから、本当に誰もいないんだろう。
電話を掛けてきて、なのに家には居なくて…一体何のつもりで…。
混乱した頭でもう一度室内を見回す。
すると、机の上に小さく折り畳んだ紙が置いてあった。
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