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「うん。とてつもなく眠いです」
「駄目ではないか。学生たるもの」
「ちゃんと暗くなる前に布団に入らないと駄目だよ」
「はい。努力します」
本当は寝不足の原因は彼ではない。犯人はカティアだ。だって思春期の男子が同じ屋根の下で女の娘と暮らして壁一枚を隔てた向こうでシャワーを浴びる音を訊いて隣で聖歌みたいな寝息を立てられて平常を保てるわけがない。しかもそんな日常がここ数日続いているのだ。相談しようにも打ち明けた瞬間に死亡フラグが築かれてしまう。
「宗一郎さーん」
「ん?」
呼ばれた。
確実に呼ばれた。
それも一人にしか呼ばれない名前で。
「(いやいやいやいや)」
額と背中にドッと汗が浮き出る。
きっと間違いだ。聞き違いだ。幻聴だ。だってあれだけ念を押したし。
「む?」
「へ?」
ニョキッと。
廊下の窓から宗一にとって見慣れた腕が伸びてきた。ちょっとしたホラーだ。
いやぁな予感がした。というか嫌な予感しかしない。
「あ、いました。宗一郎さん」
的中。窓から入ってきた、学校の壁をよじ登って校内に侵入してきたのはカティア・オズノート。片手に風呂敷に包まれた箱を持参している。
あまりにも常軌を逸した彼女の行動に撫子会長は呆気にとられ五ッ葉にいたっては硬直。周囲の生徒達も同様の状態になっていた。
「ちょっと何やってんのぉ!?」
「今朝、お弁当を渡すのを忘れていまして」
「学校には来るなって……!!」
「え、ここが学校なんですか?」
「…………」
そういえば学校というものが何なのか説明していなかった。完全に宗一に非がある。
「はいどうぞ」
風呂敷包みの箱を渡される。
「んと、これはもしかして」
「はい。お弁当です」
まずかったやばかった。何がかって公衆の面前で宗一が女の娘からお弁当を手渡しされた現実と毎朝お弁当を作ってもらってる事実だ。
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