Un capitulo

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「(一気にすっからかんっ)」  まぁ、これも醍醐味の一つだろう。諦めるしかない。  それに、 「む、胸が高鳴ってきました」 「わたしは胸を張る勢いだ」 「……は、張る胸がない」  この楽しそうな光景を眺めていると、自然にそんな事なんて気にならなくなる。 「おーい。そんなとこに固まってないでさっさと並べよ」 「わ、私のは硬くなんかないんだからねっ!」 「何言ってんだ五ッ葉?!」  上映会場は奥から二番目。映画館独特の扉をくぐりあらかじめ指定されている席に座る。会長とカティアで宗一を挟み、宗一の上に五ッ葉というポジション。 「――ん」  グッと、宗一の左手を何かが握った。  カティアだった。どうやら暗転する場内に怖くなった模様。  映画館恒例のCMが過ぎ、本格的に暗くなるにつれて左手がより強く絞まる。 「(どんだけ怖がってんだよカティア)」  案外怖がりなのかもしれない。  それでも、時間が経つと暗闇に慣れてきたらしく横で静かに大はしゃぎしていた。 「なぁ、カティア」  大音量に上書きされて、この呟きは呼ばれた本人にしか届かない。 「え、あ、はい、何でしょう宗一郎さん」 「え~っとな……」  思い出す。あの時の気持ちを。感情を。 「初めて家に来た時に言ってた俺の呪いを解くってやつなんだけどさ。あれ、」  本心を、心情を、包み隠さず、臆面なく、吐露する。  それがどんな結末を迎えさせるのかも知らずに。 「なしって事でいいかな」 「……え……。なんで、ですか」 「ん。皆からしてみればこれはただの障害だけど、俺からしてみれば友達みたいな付き合いでさ」  力が弱まりつつあると悟った彼の心の中心にあったものは喜びではなく、寂しさと悲しみだった。自分の取り柄がこれだけだという事。生まれてからこれまでずっと一緒に育ってきた事。知らぬ間に、この“呪い”が彼の個性だという事を自覚したのだ。機械夜宗一からこの特別性を除いたらそこにあるのはただの機械夜宗一。 「だからちょっと、手放すのが。さ」 「そ、宗一郎さんは、その意見を変える気はないのですか」  ちょうど、場内が真っ暗になった。 「あぁ」 「わ、分かりました。宗一郎さんがそうおっしゃるのでしたら」  彼女の顔色は暗闇に閉ざされてうかがい知れない。一体、どのような表情をしていたか。
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