Un capitulo

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「……へ?」  突如の申し出に彼は面を食らい間抜けな声を上げた。  おどおど。オドオド。  そうこうしている内にカティアが自ら手を繋いできた。 「(う、うわぁ柔らけぇ暖ったけぇ!!)」  今思えば直に肌と肌を合わせるのはこれが初めて。そう考えた途端、蛇口を思いっきりひねったみたいに嬉しさとか恥ずかしさとかetcな感情が沸いてきた。 「どうしたんです宗一郎さん。顔が赤いですけど、」 「な、なななな何でもないよ!!」 「今度は立場が逆ですね」と、カティアはクスッと笑った。 「う、うるせぇや」  しばらく、歩く二人の仲を夕日が照らす。宗一の紅潮した顔を誤魔化すように。  宗一はふと、足を止めた。 「あ、そういやぁ冷蔵庫の中身切らしてたっけ」 「はい。残っているのは賞味期限切れの牛乳とレタスのみです」  ついでにご飯もありませんと付け足し。家主よりも家の事情に詳しいこの事実。  偶然にもスーパーの近くを横切っていた。 「宗一郎さん。私はここで待ってますから」 「うん、分かった。それじゃここで待っててくれ」  彼女を置き、十数メートルも離れていないスーパーへ駆け足で向かった。  カゴを持ち財布を出す。冷蔵庫で存命中なのはレタスのみ。これではまともな料理なんて作れない。というより料理自体できない。だからまずは適当に食材を買い漁る。お肉類に野菜類に調味料類。 「重っ」  ゴンッと買い物籠から溢れ落ちそうな商品はけっこうな重量だった。袋に詰めるのも一苦労。これは店員さんに迷惑をかけた。 「おーいカティアー。手伝っ――」  そこには誰もいなかった。 「カティ、ア……?」  影も、形も、姿も、シルエットも、声も、匂いも、何一つ、痕跡も。
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