Un capitulo

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「さすがに早く来すぎたか」  まだ教職員も到着していない時間帯だ。清掃員はすでに準備しているかもしれないが、これといった顔見知りもいないしそれほど人脈も広くない。誰かが来るまでお日様に見守られて待機する他なかった。 「ん?」  そうまもない時間が過ぎた頃、道の片隅に人影が見えた。顔の識別なぞ不可能な距離。肉眼ではシルエットでしか視認できない遠方。なのに彼はその人影が誰かが容易に知れた。 「おはよう御座います、会長」 「ああ。おはよう」  かなり自己主張が激しい胸。スッとしなやかに伸びたキメ細やかな肢体。常に彼女の側近として一日の三分の一を過ごしてきた宗一は、凛とした風貌を放つ大和撫子会長を例え目隠ししてでも探し出せる自信があった。 「早いな。驚いたぞ」 「会長を待たせるのは悪いと思いまして」  宗一としては遅刻で咎められてもなんら気にも留めないのだが、彼にとって一番嫌なのは「おいあいつ、副会長のクセに怒られてるぞ」と陰口を叩かれる事だ。人気者の付添い人は苦労が絶えない。 「では、腹心が珍しくやる気を出したのだ。わたしが行動しなければ示しがつかんな」 「珍しくは余計ですよ」  彼女は施錠されている校門の錠に手を掛けた。 「何やってるんです会長。開きませんよ」 「わたしを誰だと思っている?」  バチンッとオレンジ色の火花が散った。煙を巻いて黒焦げの錠が落ちる。と同時に会長の顔色が青くなる。 「……おっとやってしまった。部下にいいところを魅せようとしたんだが。思わずやりすぎた」 「ちょっと会長なにやってるんですか!?」 「見れば分かるだろう。……解錠したんだ」 「いや違うでしょ!?」  明らかに破壊した。門下に証拠が転がっている。 「どうやら元々錆び付いていたようだ。ここにきてガタが来たのかもな」 「なに責任転嫁してるんですか!! ……それで、どうするんですかそれ」 「どうするもなにも。教諭に渡す他あるまい」 「ほほぅ。建前は?」 「これを期に新しい鍵の取り付け申告」 「本音は?」 「証拠の隠滅」 「やっぱり!!」
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