Un capitulo

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「まぁまぁ落ち着け。まさか生徒会長が破壊したと感ずく者はいないだろう。うちの生徒達はみな素直だからな」  隠し通す気らしい。卒業するまで隠蔽するつもりらしい。 「ほら。そこでボケっとしてないで行くぞ」 「は、はい」  先導されるようにして、人気がない校舎に入っていった。 「静かですね」 「二人以外いないのだから当然だろう」  本当に誰もいないようだ。コツコツコツと二人の足音だけが寂しげに響く。 「これが例のパソコンなのだが」  生徒会室の鍵はちゃんと正規の手順を踏んで解錠。早急に事を済ませたい宗一の意見もあって入室早々にパソコンを手渡す。 「直りそうか?」  手渡されたそれをマジマジと見つめ、 「はい、大丈夫そうです。回路の一部が切れているだけみたいなのですぐに直せます」 「そうか。毎回すまんな、このような事を押し付けて」 「いえ、平気ですよ。俺にとっても練習みたいなものなんで。いつでも大歓迎ですよ」 「そう言ってくれると助かる。……ではわたしは邪魔者だな。失礼するよ」  撫子は去り際に「あ、そうそう。会議があるから放課後にここへ」と言い残した。  誰もいなくなった個室で、宗一は静かに自分の仕事を行う。誰にも知られたくない、平凡でありたい特別な人間の特別な才能の行使。 「…………」  そっと触れる。何も難しい事ではない。それほど困難な作業でもない。ただスイッチを入れるだけ。電極のつまみをオフからオンにするように、脳内でイメージするだけ。それだけ、たったそれだけの簡単な工程で“起動しないのが正常であるパソコンが異常に起動した”。  自分が他者より優れているという意識はない。この“力”を誇りたくもない。特別扱いされたいとも思わない。平凡になりたいのだ。この忌々しいものを取り払ってでも、みんなが立っている場所に同じように立ちたいのだ。その不必要だと思っている“力”を頼られ、その“力”で難なく成功を収める。彼はそんな自分が何よりも嫌だった。  それでも止めようとはしない。それで人の助けになれるなら本望。 「……よし」  拳を小さく握り締め、沈んだ気持ちを払拭するように部屋を後にした。
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