Un capitulo

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 その日も相も変わらずの一日だった。生徒達からの素っ気無い態度に囲まれながら学業を終え、五ッ葉と撫子会長に背中をさすられながら夕暮れ時まで勤しんだ。  学校も終わり、商店街で一通りの買い物を済ませた宗一は寮に足を運んでいた。 「やっぱ一人暮らしっていうのも楽じゃないよな」  両親に「高校生にもなったんだから一人立ちしなさい」と急かされた時は憧れの一人暮らしに沸き足立っていたが、現実はそう甘くはなかった。なんせ自足自給をしなければいけないのだ。しかもそれに掃除洗濯学業がプラスされたらまぁ大変。青春なんて謳歌する暇も隙もない。 「ん?」  玄関の前に人がいた。女の子だった。 「何だ。あれ」  とても不思議な格好をしていた。レース、スカート。スカイブルーの髪に合わせてコーディネートしたような中世風のドレスを纏っていた。床を触りそうなその髪は、隅々まで丁寧に手入れが行き届いており、夕陽で爛々と煌いている。そこに一枚画が完成していた。  少女はゆっくりと細い腕を伸ばす。  ピンポーン。ピンポーン。  しきりにインターホンを鳴らしている。宗一に用件があるのは確実だ。 「宗一郎さーん」  訂正。どうやら宗一郎さんに用件があるらしい。 「あ、あのぉ……」  鼻腔をくすぐる香りを撒きながら少女は振り返る。 「はい」  次の瞬間、宗一の時間が停止した。  全てがドストライクだった。目、鼻、口、耳、輪郭、服から覗く手、足、指。身体、顔、個々のパーツがナノ単位で測量されたかのように美しく並んでいる様は、それはもう、破壊的なまでに、壊滅的なまでに、暴力的なまでに、芸術的だった。  彼を魅了するには、有り余るほどだ。 「どうしたんですか?」  顔を赤らめている宗一の様子を彼女はうかがう。その行為がさらに彼の心拍数を上昇させるのを知らずに。 「え、あ――な、なんでもないよっ!!」  目を逸らす。 「それはよかったです。熱が出ているのかと思っちゃいました」  きっと今なら死んでも宗一に悔いは残らないだろう。 「えっとさ、俺に用があるみたいなんだけど」 「え、誰がですか?」  ……ひょっとして天然さん? 「いや、家の前にいたからひょっとして俺に用件でもかな~って」 「あぁ!!」  目を見開き、予想通りの発言をした。 「あなたが宗一郎さんですか」 「うん。まぁ、宗一なんだけどね」
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